クールー美人




メモ:鷹邨香西准教授の現代政治学2
「国際政治における意思決定過程と南北問題の進展」に関するレポート
(A4用紙 四千字程度でワード)6月1日PM5時までに提出(注:出席点を含む!)

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 2005年、自由民主党政権である小泉純一郎内閣で打ち出された地球温暖化対策の一つ、「クール・ビズ」は同年6月1日から9月30日まで実施された。以降、日本では、国を挙げて毎年6月1日から数ヶ月間、東日本大震災以降は5月から半年の間「軽装」を公の場で認めるスタイルが続いている。
 この「クール・ビズ」であるが、2012年に読売新聞系列で実施された世論調査で96%の人間が聞いたことがあると回答した。しかしながら、実施したことがある企業は47%に留まり、男性社会においてはノーネクタイ&上着なしの正装をなかなか認めにくい状況が続いているようだ。
 この事態を重く見たICPP(International Cooler People Policy:国際冷却人口政策)のチャリンギ・カカロレット副議長は、日本を含む先進諸国G8に対し遺憾の意を表明した。さらに、国際連合総会でAG10/04/209による提言として、エネルギー使用量の特に大きい国上位5カ国(アメリカ、日本、中国、ロシア、ドイツ)に対して「クールー」を出動させることを明言した。クールーとは、パプア・ニューギニアに存在した、かつての人食い種族が感染した脳炎が語源だ。そこから転じて、クールーは、人間が人間を間引く作戦コード名となっている。つまり、地球温暖化の低減に寄与しないホモ・サピエンスを文字通り「間引く」というものである。
 この暗殺部隊の投入に対する国際批判が五カ国を中心に湧き上がったが、海水面の上昇によって現実に生活空間を消されつつあった島嶼部の人命の前では虚しい反論だ。先進諸国は、本気で地球温暖化を解決する気があるのか否か、と問題の論点をすりかえて、国連総会では南北間で激しい議論が交わされた。
 随行していた環境省地球環境局地球温暖化対策室の大室大吾室長は、カカロレット副議長の提言に対し、外務省政務次官に、警視庁公安五課による対策措置が妥当との回答内容を2012年5月5日に提出した。外務省のスポークスマンによると、外務省は国内に乱入するテロの警戒水準を引き上げるよう、警視庁に要求し、事態は緊迫しつつある。
 5月15日にはアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコに「クールー」が出現したとの連絡が入り、その一報を受けて外務省はホワイトハウスと緊密に連絡を交わし、事態の把握に努めている。
 サンフランシスコに出現した「クールー」は一説によると全裸の美女とのことだが、ヌーディビーチはサンフランシスコでは禁じられており、この美しき暗殺者はものの数分で通報された。FBIに身柄を確保されたこの美女は自身を「クールー」と名乗り、本名および国籍、年齢等は不明である。FBIでは米国在住の可能性もあるとして、この美女の身元を調査している。
 その二日後、5月17日にはドイツ連邦共和国ザクセン州に、次いで、5月19日には中華人民共和国の南部にある福建省で、5月21日には金環食で話題になった日本で「クールー」が発見された。いずれも二十代女性の赤裸々な、豊満な肉体を駆使した、色仕掛けによる暗殺者たちであった。
 5月28日の時点では、ロシア連邦に「クールー」が出現したという記録は報告されていないが、ホワイトハウスとクレムリンの間で「クールー」に関する政策対話を求めるホットラインが連日入っていることを、日本の防衛省は把握している。東京大学国際政治学の飯形孝明前教授は、5月下旬のロシアの気候が全裸には耐えられないので、まだ出現できないのでは、との見解をTBS系列の電話取材で明かしている。
 日本に出現した「クールー」は三重県鳥羽市にある鳥羽水族館で発見された。ラッコで有名な同水族館であるが、この日は海沿いに金環食を観測しようという客で押し寄せていた。海沿いに曇りがちな空を見上げていた大衆の前に「クールー」が突然、あられもない姿でビーチに乱入し、彼らの好奇な視線を空から地上へ強引に奪い返した。
 二十代女性の裸体は美術的価値は高いとは思われるが、日本の刑法においては公に裸体をさらすことは罪である。日本の場合も、他の国の例に漏れず、すぐさま警察に通報され、この美女は反撃することもなく捕縛された。
 ところが、日本に現れた「クールー」は残念なことに全裸ではなく、局部を真珠つきのヒモで隠した姿であったため、すぐに釈放されることになった。しかし、公道を歩くにしては大胆な姿であることには違いない。日本が誇る英虞湾で取れた豪華な御木本の真珠入りTバックで歩く彼女の姿を見て、鼻出血による失血で卒倒する男性も多く出現した。まさに美の女神が引き起こした怪事件である。
 この日本型クールーは、肩の中ほどまで伸びたストレートの黒髪を持ち、きわめて日本的な流し目の美しい切れ長の瞳を持っていた。彼女も本名および本籍を明かしていないそうだが、日本在住の可能性が高い。
 5ヶ国に出現したクールーは、国外から流入したのではなく、カカロレット副議長の呼びかけに答えた女たちである可能性が高い。普段から、環境問題に関する活動を行っていて、過激なクール・ビズを実施することで世間に話題を呼び起こそうとの狙いがあるのではないか……との見解を警察庁長官が5月25日にプレス向けに発表した。同日、世界ではこの流れに協調するようにして、アメリカから端を発した一連の事件の真相がニュースに流れ、クールー美人の正体について報道が過熱する。
 これを受け、日本ではフジテレビジョン系列のメディアで「密着! クールー美人による過激な制裁」と題する情報番組が作成され、緊急特番として5月28日午後七時より全国ネットで放映された。内容は、世界4ヶ国に出現した「クールー美人」の実態を現地取材班が時系列に追ったドキュメントであり、クールー美人出現後に起きた社会変化を、良識的な日本のお茶の間に伝えるものだ。
 この番組によると、イギリスでは各国にクールー美人が出現した後に、男性の間であるファッションが流行しているという。トラッドファッションの発信地であるイギリスでは、復古主義によるネクタイの見直しが進んでいる。少し幅広なタイを裸体に締めるという、男性の性的魅力が見事にアップするすさまじいファッションである。肌に直接巻くために、ネクタイの素材を含めた改良を行い、局部すらも隠れるよう少し長めの丈で作られている。ここしばらくは奇抜なパンクファッションをリードしていたイギリスの服飾業界であるが、ここにいたって、裸にネクタイという伝統分野の見直しで、フォーマルスーツを始めとする伝統文化の復興が期待されている。
 日本ではノーネクタイの潮流に移行しつつあるが、これは全く逆の発想である。裸にネクタイという姿が公式に認められるなら、これ以上涼しい格好があるだろうか。ぜひ、真夏の炎天下を働く営業マンに認めてもらいたい。ただし、直射日光が背中に直撃することを考えると、やはり外に出るときには上着が必要になると思われる。
 また、最初にクールー美人が出現したアメリカでも、肌の露出の増えたファッションが流行し、メタボリックシンドローム対策に次いでダイエットブームが起きているという。5月15日に出現した後、彼女はあるCMに出演した。そのCMの概要を下記に紹介する。

 汗だくのメタボ男性の脇を超過激なビキニ姿で女が横切る。その手には機関銃を握っており、色気のある目で男の体を吟味している――。
 不意に女が男性の前に立ちふさがる。男の肉体に銃口を向け、彼女は言う。
「暑いなら、今ここで脱ぎなさい。脱がないなら、そのふやけた体にぶちこむわよ?」

 ここで、テロップによる宣伝文句が入る。立ち上がれ、男性諸君! 美しい肉体を彼女にさらすのだ、とある。キャッチコピーは「取り戻せ、肉体美!」である。さすがはハリウッドの存在するカリフォルニアだ。シュワルツネッガー前知事も大満足の出来だろう。
 だが、そんな言葉で煽られなくても、CMに出てきた露出美女を見て、男性視聴者は立ち上がりっぱなしであろう。ぜひ、豚野郎と罵ってぶち込まれたい、という逆転の発想を持ったM男性もいることだろう。
 日本では、あの真珠Tバック美女のおかげで清楚な真珠が売れている。主な買い手は二十代男性である。真珠に淡い幻想を抱き、ネクタイに真珠のピンをつけることが流行しそうだ。この流れを受けて、真珠の御木本とコラボレートする形で「ホワイトピン・アクション」を非営利団体で計画中である。地球温暖化ネットワークと京都大学がNPO法人を作り、ミキモト真珠を用いたネクタイピンを、地球環境に優しい活動を支援する人たちに提供するという。
 さまざまな話題と議論を生んだ「クールー美人」であるが、ICPPのカカロレット副議長はフランスで行われた非公式のマスコミ取材に対し「我々は一連の事件とは無関係です」と表明し、五カ国に自粛と反省を促しているということである。
 副議長が言及していた「クールー」が派遣されたかどうかは5月28日現在では把握できていない。いずれにしても、本物の暗殺部隊が派遣される前に、この問題は南北双方の協調による政策対話によって早期の解決が望まれる事案である。

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鷹邨香西准教授からのコメント
 最初の段落以外は真実が全く書かれていない。ふざけるな。
 三木本くんには、以降「クールー」を命じる。だが、間違っても、僕の研究室に裸にネクタイ姿で出現しないように。もう授業には出てこなくてよろしい。

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6月1日午後九時。日本の有楽町界隈で、上半身裸にネクタイ姿の二十代男子学生集団が乱痴気騒ぎをして、警察に捕まる事件が発生した。
某東大国際政治学准教授は一連の事件に対して固く口を閉ざしたが、主犯である三木本耕作は深く反省して、准教授室の前で十一時間の正座と土下座を繰り返し、レポートの再提出を認めてもらったことを追記しておく。



<注:当然ですが、ここに書かれたことは全て事実無根です!>


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文責:tomoya@CONTO BLOCO