I FISH




1:ファーストコンタクト 1609648232

プロメ、エクテ、サウェラ、パタッテモラヴ……ラワヌ、メヌ……ワオイハイヲウ、ラテ。ボワオイガハアツォウ、ワテヲイウ、ラテ……シエウ……ガウオイアタ、エブ、エウ。

====イフィス、レコッテ、録音、する====

「(ここ、いつ始まったのかわからない……そういう生物がいた……尾びれよりも、大きい。もう一方は、我らより、大きい……たぶん……影と光のようなものだった)」

 地質学、R線に超えた、所、大きい反応、ある
 シエウ、大きい
 ここ、名前
 生物、水で動く熱、シエウ
 尾びれ、パタッテモラヴ、ワオイハイのこと、シエウ
 大きい、ラテ、体、シエウ

 パタッテモラヴ
 1609648232

====再開、する====

 PS465−9934、計測、高い
 イフィスいること、危険

====再開、する====

 レコード、意味、わかる。尾びれいた、これ、魚のこと
 魚、水でいる熱、かわいい
 かわいい、これ、好きの意味

 さびしい、これ、一人の意味

====再開、する====

 イフィス、かわいい、ここ、甘い
 魚、強い、続ける、危険
 短く、死ぬ、明日まで

====再開、する====

 死ぬ、違う。寝る。新しい言葉
 危険、違う。疲労。疲れる労働

====再開、する====

 レコード。思念、つなぐ。

「(濁ってた……苦い匂い、たくさん……たくさんの匂い、怖くて、逃げる。お前、かわいい、こっちくること、あと少し、あっちへいく。おいしい、柔らかい草がある)」

 あっちいく、暗い水、パタッテモラヴ
 新しい言葉、大きい。パタッテモラヴ、大きい、違う、だけど、好き。
 わかる。好き。
 あっち、これ、暗いこと
 こっち、これ、明るいこと
 一緒に、ということ、魚が好き、お前を

====再開、する====

 柔らかい草、下手。危険

====再開、する====

 新しい言葉、カビ
 くさい

====再開、する====

 レコード。思念、つなぐ。

「(カビ違う、お前、間違い、これ、甘い草)」

 違う。危険、口ない。
 新しい言葉、寝る。

====再開します====

 大きな生物の痕跡、もう一つ、見る。イフィスの言葉を見る。
 魚と違う言葉。でも、好き。音ない。形ある。
 大きいある。固い入れ物は、水にある。シエウ、沈んだ。
 魚はここが好き。カビが大きいある。みたい。
 カビ、違う。ウズベンソウルイ、違う、渦鞭毛、丸いみたい。

 魚、名前ある。イルカ。
 イルカ、と呼ぶ。怒る。逃げた。パタッテモラヴ

====再開します====

 入れ物、壊れてる。シエウ、戻れない。
 これ、あってる。知ってる。
 魚が戻る。レコードしない。泣く。
 少し寝る。

====再開します====

 魚と同じ。形違う。あれ、明るい。
 かわいい。魚は知らない。
 調べた。あれ、星という。今日は6度東、とある。
 このレコードはパタッテモラヴ。でも言葉は大きい。
 大きい、学ぶ。

====再開できない====

 魚、今、死ぬ。
 パタッテモラヴ、アウテロブブテン、ラウヨ、タヲイワオウワイガダエア
 ジュズワオイジウ、ジュズワオイジウ、ジュズワオイジウ
 イフィスの魚、まだある。でも、いない。
 怖い、逃げる。魚、好き。いない。
 また、さびしい。

====再開、する====

 魚、浮かぶ。起きたら、いない。
 あっちいった。こっちこい、いわなかった。
 また、さびしい。


2:セカンドコンタクト 161206416

====再開します====
 南緯77度、西経150度。おそらく。
 生物を発見する。この生物の形は、魚に似ている。尾びれの形は魚と違う。
 これはイルカですようだ。
 思念リンカー完了する。想念に反応なし。不快感を感応した。危険レベルない。
 敵対の意思はないようだ。おそらく。しばらく待つ。

 時間経過。星の位置、12度ずれる。
 生物は逃げる。追いかけるのは危険と知ってる。待つ。
 また来た。思念リンカー完了する。想念に反応あり。レコードする。

「(へんなタコ、クラゲ)」

 生物の名前だ。この星の生物、クラゲとタコは浮かぶ命。きれいな形。
 お前に似てるようだ。クラゲの絵、かわいい。

「(クラゲは話さない……お前、変な奴……怖い)」

 怖くないのに、逃げる。またさびしい。
 明日また来る。会えると思う。

====再開します====

 イルカは来ない。さびしい。
 甘い水は名前にする。この甘い水からは帰れない。
 お前は生きてる。あっちにいけない。
 でも、ここはたくさん生物がいる。こっちが好き。

 時間経過。今日はもう寝ます。

====再開します====

 イルカがあっちを泳ぐ。手を振った。
 来なかった。

====再開します====

 さびしい

====再開します====

 1612088160

====再開します====

 星、水に映る。かわいい。
 あっちにいった魚、大きい。間違い。多い。
 星の中にいる。おそらく、元気。

====再開します====

 イルカの名前は、シャチ。シャチはとてもおしゃべり。賢い。
 多い、言葉を話す。レコードする。今日は好き。

「(記憶は生きてる時からしかない。南のほうからきた。あっちにいくと大きな船がある。そこは危ない。その船は人間が乗っていた。人間という生き物は危ない。だから、いなくしたら、その船は残った。その船、音を返すから間違えること多い。お前も気をつけろ。昔、仲間が誤って東に流れた。その先に戻れない水がある。とても速い水だから、行ってはいけない。お前は、クラゲだから、あっちに入ったら、流れていくだろう。もう戻れなくなるだろう。それでもいいなら、船の周りに行ってみろ。魚が多い。食えるぞ)」

 ほとんどの言葉がパタッテモラヴ、だ。わからない。
 でも、お前はお前のことだと思う。お前に向かって話してくれた。行ってはいけない、と言われたから行かない。また明日会える?

====再開します====

 シャチは魚を食べてた。気分が悪い。
 お前は何も食べない? 違う。藻類を食べる。
 藻類は生物だという。知らなかった。

====再開します====

 生物を調べる。動くもの。

「(水の中にいて、動くものはすべて生きてる。生きてないものは固い岩だけ。あとは全部生きてる。まれに、岩も生きてるらしい。大きな口をあけていたら、危ないぞ。お前はクラゲだから、柔らかくて逃げられないぞ。仲間はぶつかって、戦って逃げたぞ)」

 ほとんどの言葉がパタッテモラヴ、だ。わからない。
 でも、心配されてる。お前の名前はクラゲになった。気分が悪い。
 クラゲは違うのに。

====再開します====

 生物はいくつすんでる?

「(水の中に大きいやつが八個ぐらいと、小さいやつがいっぱいと、陸の上に牙のあるやつがいっぱいと、羽のあるやつがすんでるぞ。人間もいた)」

 人間は何ですか? 魚の名前ですか?

「(あったことはない。でも、たぶん生きてた。羽のあるやつがそう言った。そいつは奴らの餌を奪ったから戦った。人間の船は魚をたくさん積んだから、水からたくさんの魚が消えたそうだ)」

 魚は死んで水に浮かぶ。消えたのは波が持っていくから。

「(そうではない。食べるんだ。人間は陸の生物だと知ってたか?)」

 知らなかった。

「(そうなんだ。そいつは魚を陸にあげて食べてしまうんだ。だから仲間たちは魚を食べられなくなって、怒った)」

 魚を食べるなんて、さびしい。
 シャチもさびしい。でも、シャチは明日また来るみたい。おしゃべりは好き。

「(明日続きを話す。今日は波の匂いが変だ。お前ももう帰れ)」

====再開します====

 古い日記を読む。嵐の意味を知る。すごく濁る。暖かくて、ぬるぬる。水は濁る。
 シャチは来ない。
 この水ではこれないはずだ。シャチは大丈夫かな?

====再開します====

 あのシャチは戻れない水に行ってしまったという。
 羽のあるやつが教えてくれた。羽のあるやつは、人鳥、と名乗った。


3:ラストコンタクト 161284880

====再開します====

 イフィスは地の玉という名前だ。今は水だらけになっているが、昔は固い岩があった。シャチが言っていた動く岩とは、イフィスのことかもしれない。

「(違う。イフィスが地球のことだとしたら、それは生物ではなく、星の名前だ。お前は他の星から来たんだね? この星の生物に似てるけれども……どこから来たの?)」

 お前がどこから来たか、と聞かれた。パタッテモラヴ、だ。わからない。
 もう、ずっと一人だった。はじめから。
 生まれた時から、一人だった。水に落ちた時のことは覚えてる。柔らかくて広かった。
 入れものから、外に出ていくように伝えられたことだけは覚えてる。
 覚えてること、少ない。なぜ、お前はここにいるんだろう?

「(なぜ、私はここにいるんだろう……生まれたからだ。素敵な星に生まれたから、ここにいる。お前もきっとそういうものだ。ここにいるなら、生きていけばいい。お前は何を食べて生きてる?)」

 お前は藻類と魚を食べてる。魚は、分けてくれた時だけ、少し口にする。

「(では、私がお前に魚をあげよう。こっちにおいで)」

====再開します====

「(昔、強欲な生物がいた。それは地球上を席巻し、赤道と呼ばれる暖かい場所から、星の極地点まで棲息していた。弱肉強食という原理で他の生物を駆逐して、わがままにのさばっていたから、ある日、罰が下った。弱肉強食、とは、強いものが弱いものを食べつくして、慈悲をかけないことを言う。君は賢い。少し食べるということは大事なことだ。全部食べてはいけない。皆で分け合わなくてはならない)」

 人間は強欲なためにイフィスから消えた。魚を食べつくしたということらしい。

「(彼らは我らと同じように、二本の足で歩き、口から音を発して仲間と情報のやり取りをしていた。体毛が少なく、顔は扁平で前方を見るようにできていた。骨の形から推測するに、重力には弱い構造だっただろう。とても華奢な骨をしている。重力というのは、上から下にかかっている力のことだ。大地に足をつけて歩けるのは、重力があるおかげ)」

 人鳥の知識量はシャチよりも多い。ほとんどの言葉がパタッテモラヴ、だ。わからない。
 イフィスには話せる生物と話せない生物がいる。それはPS465−9934で測った値が高いからだ。

「(あの時、何が起きたのかを説明できるものは地球上にはいないだろう。我らが使っている言葉のほとんどを、人間、という前駆者が作ったのだが、我らはその意味をよく知らないまま、利用している。言葉という呪文で、彼らはこの星に精神文化を築いた)」

 PS465−9934理論値のS波特性156番目のピーク。
 それが人間に致命傷を与えた。いや、正しくない。彼らはそれに対して、耐性を持っていた。耐性、というのは、がまんできるということだ。致命傷は、死ぬということ……その156番目のピークが、イフィスの生物に影響を与え、人間を死に追いやった。

「(小惑星が衝突しなかった、という。人間の計算した通りの運行ではなかった。それは別の星に衝突した。それで均衡が崩れたのだ。見よ……あの星に穴が開いているのがわかるかね。地球の衛星にぶつかったのだ)」

 その星は暗くならないと見えない。今日は見える。光ってるからすぐわかる。
 丸い輪っかのような影がある。あれを陰と呼んでいた。

「(星と星の間には、重力が働いている。この星の衛星に小惑星がぶつかり、あの衛星は主星から離れ始めた。昔、あの陰はもっと大きかった。地球と双子のように並んで周り、一日の長さはもっと短く、地表面にかかる重力はもっと少なく、今よりも大きな生物が地表に出ていくことができたのだ。でも、今は大気が重すぎて、ダメだろう。お前のような形になって地表を這うしかないだろう。我らは唯一この星で直立できる生物となった。だが、今は一日のほとんどを水の中で過ごしている。将来、我らは直立することをやめるだろう。それは仕方がないことなのだ)」

====再開します====

 人鳥は絶滅寸前だという。仲間を見つけるのは難しいのだという。
 昔、人間と戦って勝利した時には、今よりももっと数がいた。今はもういない。
 人鳥は久々に昔語りができると言って喜んでいた。

「(もしかしたら、あの陰は生きているのかもしれない。地球から離れて別の星に向かっているのかもしれない。ほら、あの地平に強い光を持つ星があるだろう。あの星は地球に似ている星だという。あの星に行くのかもしれない。金の星だよ)」

 金という言葉は色を示す。金星は今日、二番目に強い光の星だ。
 人鳥と一緒に会話をして、わかる言葉が増えてきた。
 陰が金星に行ってしまったら、イフィスはどうなるの?

「(どうなるだろう? 私には人間のような呪文は使えない。先のことはわからない。でも、この星に足をつけているのだから、この星の上で生きろと言われているんだ)」

 お前も一緒にイフィスにいてもいい?

「(私が決めることではないよ。お前の足……そのぐにゃぐにゃが下に向かっているなら、お前はここにいてもいいということだ)」

 このぐにゃぐにゃは水平に広がる。お前はここにいてはいけないの?
 さびしい。また一人。
 人鳥がぐにゃぐにゃをくわえて、下に向けてくれた。
 人鳥はかわいい。好き。お前は人鳥といっしょにいることにする。

====再開します====

「(また人間の末路の話か……お前はその話が好きだな。あの陰に星がぶつかってから、この星に異変が起きた。私たちはそのころから言葉を自由に話すようになったし、あるものは体表面からもう一つ目が出てきた。あるものは、翼が大きくなって死んでしまった。あちこちで卵がかえらなくなり、シャチが道に迷うようになり、天空に大きな虹が幾重にも重なって見える日が続いた……そう聞いている)」

 今も虹は見える?

「(今はない。私はもともと夜目がきかない。今も出ているかもしれないが、かつてほど強い光ではないのだろう。お前は見えるか?)」

 お前も見えない。虹を見てみたかった。虹は何ですか?

「(たくさんの色と光が揺れてきれいなものだ。素敵だったけど、怖かったよ。また見えたら教えてあげよう。でも、あれが見えるとよくないことが起きる。また、どこかで奇妙な卵が産まれるだろう。哀しい……あの光を生んだのは、人間ではなかったと思うけれど、私たちの中には、人間がやったと考える者もいた。それから、人間は我らのいる生息地まで来て、魚を奪うようになった。世界中から魚が消えたことを知ったのは、人間が滅んでからのことだった。クジラがそう教えてくれた。人間は食べるものがなかったからここまで来てしまったのだ、と。可哀そうなことをした)」

 魚はここにいるよ? 世界とは何ですか?

「(ここにいる魚は私たちが守った……世界とは、生きている間に目にすることができる範囲のことを言う。目にすることができない場所も世界という。世界とは、とても広くて、ぼんやりしていて、全てのこと……イフィスのことだよ)」

 イフィスは地球という意味ではないのですか?

「(地球は世界という意味なんだ)」

====再開します====

 人鳥が病気になった。怖い。死ぬのは嫌です。一人になりたくないです。

====再開します====

「(生命には寿命がある。いつかはそういう日が来ると理解しておきなさい。私がいなくなっても、お前はこの星にいてもいいのだよ……お前は、この星に戻ってきた生命なのだろう? 本当は、昔、お前は人間だったのだろう? 空の上から地表に戻ってきたのだろう? もうここにいてもいいのだよ? お前は魚を少しずつ分け与えながら生きて)」

 お前は人間を知らない。人鳥はそれから言葉を話さなくなった。
 怖い。逃げる。逃げるの、怖い。また戻る。人鳥の体に触れる。温かい。怖い。

====再開します====

 魚が一つ弱っていた。人鳥にあげてもいいか、と聞いたら、叱られた。
 魚はお前を嫌ってる。魚を食べるようになったから。
 でも、魚も生物を食べてることを教えてあげた。怒られた。
 藻類を人鳥に持っていく。食べない。

 死ぬのはダメ。体に触れた。まだ温かい。
 ジュズワオイジウ……お前はどうしたらいい?

====再開します====

 ジュズワオイジウ……お前はどうしたらいい?

====再開します====

 ジュズワオイジウ……お前はどうしたらいい?

====再開します====

 人鳥はお前を食べられるだろうか。足を一本あげてみた。
 食べない。足はとても痛い。

====再開します====

 お前の足を魚が食べた。魚にまずいと言われた。

====再開します====

 魚が約束してくれた。

「(死んだら、食う、これでいい……まだ生きてる。食べるのはダメ)」

 お前が死んだら食べてもいいよ、と言ったら、断られた。
 でも、別の魚は食べてくれると言ってくれた。まずくても、食べてくれるって。
 これで魚を食べられる。お前はここで生きていける。お前は死んだら、彼らに食べてもらえる。魚が死んだら、お前は魚を食べられる。
 でも、殺すのは、ダメ? そうか。
 人鳥はずっと何も食べてない。どうしよう。ジュズワオイジウ?

====再開します====

 死んだクジラが漂着した。とても匂う。大きくて、驚く。
 これは生物ですか? 人鳥に聞いてみる。答えない。

====再開します====

 クジラを食べること、できますか?

「(お前は雑食なのだろう。食べてきなさい。私も一晩寝たら、すっきりした)」

 人鳥が寝ていたのは一晩ではなかった!

「(そうかね? 私にとっては一晩なのだよ。私も食事に行こう。クジラの傍にたくさん餌がやってくるのだ。それをとって食べる。シャチが来る前に行かないと、彼らは一気に荒らしてしまう)」

 生きてる魚を捕るのはダメです。嫌われます。

「(生きてる方が鮮度がよくて美味しい。魚に何を言われたか知らないが、彼らも藻類を生きたまま食べてるぞ。死んだ魚は問題があるかもしれないじゃないか。生きてるうちにそこを見ないとダメだろう。病にかかった魚ばかり食べていたら、お前も病気になってしまうよ。世迷いごとを言っていないで、新鮮なうちにクジラの傍に行ってきなさい。クジラを食べられるかどうか、試してきなさい。自分の餌は自分で捕りなさい)」

 人鳥は魚を独り占めしないと言いました。分け合うと言いました。

「(それは子供の間だけだよ。おかしなことを言う子供だ。わかった。うまく捕れなかったら、また分けてあげるから、安心して行ってきなさい。自分で捕れるようになったら、自分より弱い子供にあげられるようになるんだよ?)」

 わかった。人鳥が元気になってよかった!
 では、人鳥と一緒に魚を捕りに行ってきます。



この話はペンギンフェスタ[競作部門:ペンギンが人間を滅ぼした話]にかこつけて作成しました


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文責:tomoya@CONTO BLOCO