創作術について

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構想 

2構想とは何か



 伏線を綺麗に使える人間になりたいと思い、プロット、というものを不器用ながらに作り始めた。プロット(plot)は辞書で引けば「構想」と出てくる。はじめ、私はこれを「あらすじ」だと思い込んでいた。
 厳密に言えば、あらすじは「plot」ではなく「synopsis」とか「outline」と呼ばれる。俗にいう「起承転結」や「序破急」を示したものが、あらすじだ。

 あらすじだけ組めばいいじゃない!

 私も最初はそう思っていたから、起承転結、の作成を始めた。もともと、五十枚程度の短編だと、私は起承転結のはっきりした創作をするタイプだ。短いと見通しが良いので、作り方も楽だったというわけですが。
 だから、手前みそながら、起承転結ぐらいはお手の物だと思っていたわけです。さらに、白馬さんから起承転結ならぬ起承転起承転結のアレンジも聞いていたので、山を増やす方法も何となく実践した。どれだけ長くなっても、アレンジを加えれば自由自在です。
 で、早々につまずいたわけです。
 理由は「竜頭蛇尾」です。これは残念ながら、今でも欠点として残ってしまった私の特徴で、今はその弱点克服で描写論をこねくりかえしているわけなのだが……余談だ。
 話を元にもどすと、冒頭は書くべき情報がとても多い。登場人物の説明が入り、世界観説明が入り、状況説明が入り、ミステリとサスペンスの説明が入り(ミステリ小説でなくても、話の引きを作るにはサスペンス要素が必要ですので)、そして、事件の説明が入り、日常の説明と共に非日常の対比が入り……書くことがたっぷりあるので、冒頭はとにかく量が増えます。
 そして、徐々に書くものが減ってくる。読者と共通認識を得たら、何度も説明する必要がなくなるので、本編の展開に視点が移動していくが、注意しないと、相対的に見て冒頭とラストの分量に差が出てきてしまう。
 だから、読み終わった後に「あれえ? 何だかするっと終わっちゃったよー、あっけなくね?」といわれる話になってしまうのだ。

 あらすじでわかるのは、話の流れでしかない。
 ほんとうはそこで描くべき情報の考察が入っていない。登場人物の数であるとか、その性格や外見、経歴、特徴的な世界観の説明であるとか、地形の情報、物語のキーセンテンスとなる小細工の説明、舞台の説明、技術の説明……それは全て本編で文字にして書き起こすべきものだ。だが、あらすじだけ組んでも、それをどれだけ書き込めばいいのかはわからない。そもそも、それらの情報をどれだけ取捨選択していいのかがわからない。思いついただけ書きたいだけ書くと、バランスの悪い完成品になる。竜頭蛇尾です。
 構想はあらすじではありません。
 完成品を計画するためのものなので、文字に書き起こす必要のある情報を全て考察する計画書という意味になります。だから、キャラクター設計、タイムテーブル、舞台説明、世界観説明などの話の流れに直接関係しないけれども、物語の構成に不可欠な要素の説明が加わります。

 だが、まだ不足だ! 一番大事な考察が抜けている。

 小説は文字の羅列なのです。文字の考察、いや、文章の考察が必要です。つまり、漢字の量をどうするか(対象年齢に合わせて考察する)、丁寧語で書くか、だ/である調で書くか、科学論文のように硬い言葉で作るか、砕けた言葉でライトに作るか、現代語で作るか、近代の古めかしい言葉使いを使うか、一人称にするか、三人称にするか……読み手が味わう話の雰囲気は、文字そのものから作られるので、空気を考察しないと、せっかく作った世界観や人物設計が生かされないのです。
 あたしはぁー、もうこういう形でしか書けないからぁ、文章の考察なんてぇいらないもーん。これは国語の勉強じゃないしぃ、書きたいことが書ければ満足だしぃ……それでいいです! 書きたいことを書くだけなら、それでいいです!
 ただ、私は毎回同じ雰囲気の文体で似たような話を作りたくなかっただけなのよ。だから、自分の理想の文体をもう理解している人はいいですよ。文体の固まっている人は文章の考察なんていいっすよ。やりたくないならやらなくていいっす!
 だけど、私は構想で最も重要なのは、この文章の考察だとも思うのです。たぶん、ほとんどの人は人称と視点ぐらいしか気にしないでしょうけれどもね。

 最後に、もう一つだけ、付け加えておく。

 私はもう一つ、構想に不可欠の考察項目があると思っているのだが。先日行われた「アザーズプロット企画」で、他者のプロットを拝見して、再発見した。
 誰も、創作の目的を考えていない!
 私はプロットを考える時に、真っ先に考察するのですが、一般的ではなかったらしい。
 創作の目的を明らかにしないと、ここまで考察した大量の情報選択に迷います。目的があるからこそ、要不要を選択できるように思うが……創作論は人によるなぁと思いました。無目的でもいい。欲望による創作でもいい。なんでもいいです。創作は自由ですから。
 構想に何を入れ込んで完成品を考察するかは人による。
 その人の哲学が最も反映される設計図がプロットなのではないかと思います。
構想